Thursday, May 31, 2018

大井川流域ダム調査

さすが南アルプスは不安定

これが大井川で一番感じたことです。
申し遅れましたがこんにちは。4月より修士2年に進級しました芳賀泰平です。
528日から529日にかけて研究室の先生方、ヤンゴン工科大学の教授2人、中部電力の方々、そして学生3人で大井川流域のダム見学に行ってきました。
その様子を少しですがお伝えしたいと思います。

1.静岡到着→井川ダム

 見学初日は朝集合でした。東京から静岡まではひかりを利用して約1時間です。僕の場合、東海道新幹線に乗るときは大抵名古屋か京都まで行くためひかりに乗る機会は意外と少ないものです。
 全員が集合したのち車で静岡駅を出発し、道中のセブンイレブン静岡上伝馬店にて昼ご飯を調達し上流部へ。ここからしばらくの区間は食べ物を調達できるお店が存在しないようです。

食料を調達

 セブンイレブンから最初の訪問地井川ダムまでは約1時間半。途中まで安倍川流域を上った後分水嶺を超えて大井川側へ入り、坂を下って井川ダムへ向かいました。分水嶺を超えるところは非常に悪路で何人もの人が車酔いしてしまいました。僕は酷い区間ではたまたま寝ていたため事なきを得ましたが…
 井川ダムは昭和27年着工、昭和32年竣工で、この後訪れる畑薙第一ダムとともに日本で数少ない中空重力式ダムです。見学の一環で空洞となっているダム堤体の内部にも入らせていただきました。堤頂部からエレベーターで約80m下り空洞の底につくと、約10度程の冷たい空気がエレベーターに流れ込んできました。堤体内の気温は季節に応じて5度から15度の間で変動するようです。

2.赤崩

 井川ダムを出たのち大井川をさらに上流へ進み畑薙第一ダムを超え、有名な赤崩へと向かいました。ここからは膨大な量の土砂が供給されており、赤崩直下にあるトラス橋は河道との高低差が徐々に小さくなりつつあります。
赤崩
土砂が橋に迫りつつある


3.畑薙第一ダム

 赤崩で膨大な土砂供給量に唖然としたのち、下流の畑薙第一ダムへと引き換えしました。
 畑薙第一ダムは昭和32年着工、昭和37年竣工で井川ダムよりも5年ほど新しいダムです。
 畑薙第一ダムは2で取り上げた赤崩の直下に位置していることもあって土砂流入が激しく平成25年度時点で総容量比で43%まで堆砂が進んでしまっています(出典)。中部電力の方も余りに激しい土砂流入に困り果てているようでした。

4.赤石温泉白樺荘(ホームページ

 夜は畑薙第一ダムと第二ダムとの間に位置する赤石温泉白樺荘に宿泊です。ホームページによると主に登山客向けなようですね。平成21年完成だけあって施設は綺麗で、大浴場には露天風呂もついており快適です。
 到着直後M1の塩澤くんが大井川流域のダムで進めつつある研究について中電の方や先生たちに説明。
 
M1の塩澤くんが中電の方たちに研究内容を説明

 夜、朝と2階お風呂につかりました。やはり温泉は極楽ですね。

5.長島ダム

 今回の調査で訪れた他のダムと異なり、長島ダムは国土交通省管理の多目的ダムです。
 長島ダムにはふれあい館という施設が付随していて、ダムの役割や観光情報などの展示がなされていました。国土交通省はこのような施設を多く抱えていますが、例にもれず訪問者がいませんでした。展示内容は優れているだけに残念です。

長島ダムを背に集合写真

 ちなみに、長島ダムからは大井川鉄道井川線のアプト式区間が見えます。下の写真の上側の高架橋が井川線の線路ですが、トンネルの左右で勾配が大きく異なる様子が見て取れます。この区間には、日本の鉄道の中で最急こう配の90‰(=9%)の坂が位置していて、日本で唯一のアプト式という手法が採用されています。
井川線

6.昼食@おざわ屋食堂

 長島ダム見学の後、川根本町の千頭地区にあるおざわ屋食堂で少し早めの昼食をとりました。僕は親子丼をいただきました。
 近くに中部電力の静岡水力センターがあるため、多くの中部電力の作業服を着た方々が腹ごしらえされていました。

7.塩郷水力制御所

 最後に訪問したのが塩郷堰堤に隣接する塩郷水力制御所です。今年の4月から、大井川流域に位置するダムのうち東電管理の田代ダム、国交省管理の長島ダム以外の全ダムを監視・操作しています。加えて中電管内の天竜川、富士川、安倍川流域の水力発電ダム、メガソーラー、風力発電所の管理もここから行われています。大井川流域内には無人のダムも多く、非常時にのみ人員が派遣されるそうです。壁一面にダムの情報が表示されている様子は壮観でした。
 もともと大井川流域だけでもダム操作を行う制御所は3か所に分かれていたのですが、効率的・一体的な運用を行うため制御所が統合されました。統合によりダム操作に携わる職員の方は3割ほど少なくなったようです。統合するだけでそんなに人員を減らせるのかと驚きました。
 私たちが伺ったときは一部のダムでメンテナンス作業中だったらしくアラーム音が時々鳴り響いていました。

8.静岡駅帰着

 塩郷水力制御所からは大井川沿いに下り、新東名、1号バイパスを経由し静岡駅まで戻ってきました。静岡から井川ダムへ向かった際に通った悪路とは打って変わり、快適な道中でした。
 わずかな区間だけ新東名を通りましたが、トンネル・橋梁共に片道3車線分のスペースがありながら2車線道路として使われています。お金がかかるトンネル・橋梁がすでに完成しているのであれば早期に3車線化して欲しいなあ...とも思います。

9.調査のまとめ

 今回を研修を通して感じたことは以下の3つです。
 まず、アクセスの良さです。僕はミャンマーのダムを訪問したことがありますが、未舗装の悪路を3時間(+舗装道路1時間)走ってようやくたどり着けるダムがざらにあります。ところが大井川ではかなりの奥地まで舗装が続いており、舗装が途切れてからも凹凸の少ない通行しやすい道路がダムまで続いていました。3時間に亘って揺られ続けるといったことは全くありません。舗装によってアクセス性が大きく改善されるということがミャンマーと比較することでよくわかります。

 次に大井川を開発する難しさです。大井川では戦後水資源開発が積極的に進められてきました。日本を構成する4つのプレートのうち北アメリカプレート、ユーラシアプレートという2つの大陸プレートがせめぎあう日本アルプスでは地質が不安定で、アルプスに端を発する河川は激しい土砂の流出に悩まされています。流域のダムは堆砂が速いスピードで進み、ダムが土砂で埋もれてしまうのも時間の問題かもしれません。河川敷も土砂が堆積し河床も上昇しているようです。

 そしてこのような難しい大井川において、多くのダム群を建設し複雑な水路を配置してきた先人たちの努力の大きさに思いをはせました。地質的な意味では決して恵まれているとは言えない大井川ですが、アルプスに源を発するだけあって水位の高低差確保の観点からは水力発電に適しているといえるでしょう。そこに目をつけ東海地方に電気を供給する拠点として限られた水を効率的に活用すべく多大な努力がなされてきました。水資源開発の過程では多くの殉職者も出たそうです。電気は欲しいときに欲しいだけ手に入って当たり前というのが現代人の感覚だと思いますが、その裏にある努力や犠牲を忘れない人間になりたいと思いました。


 ダムは環境破壊の象徴のように言われることもありますが、れっきとした再生可能エネルギーの一種であり、かつ太陽光や風力と違い計画的に発電ができます。大井川では堆砂といった問題は深刻ですが、二酸化炭素を排出しない水力発電の価値はもっと評価されても良いのではないのでしょうか。中部電力などと進められている共同研究を通じてより効率的な水力発電が実現したら良いですね。

 最後になりますが、本研修を組んでくださった中部電力の方々にこの場を借りて御礼申し上げます。

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